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勝手に最遊記Ⅱ

勝手に最遊記Ⅱ

Pain―Past-2









深い 深い  


深淵の闇の中・・・・







何処かへと、落下していくような感覚


















・・・・・・耳に届いた微かな声









赤ん坊の・・・泣き声、か?











「・・・・・此処は・・・」








視界に広がる蒼い空   白い雲   暑く照りつける太陽   噎(むせ)る程の緑と土の匂い




そして





煩いほどの蝉の音と、






                      「・・・・・・・赤ん坊?」







声も限りと泣き叫ぶ、赤子の声が・・・









ゆっくりと上体を起こせば、自分が地面に倒れていた事が判った。



「・・・悟空。八戒、悟浄!」

すぐ傍に悟空達も倒れていた。



「・・あ?さん、ぞう・・・」

悟空や八戒達も首を捻りつつ起きあがった。



「・・よ~三蔵サマ。ココって一体ドコなワケ?」
「知るか。菩薩にでも聞くんだな」
ポリポリと頭を掻きながら周囲を見回す悟浄。
「此処は何処かの・・・畑、のようですが。向日葵畑ですね」

周囲を見回せば、青々と生い茂った草に、眼にも眩しい黄金色の向日葵。

明らかに人の手が加わったと見られる畦道に、整然と並ぶ向日葵。

菜の花と同じように向日葵を栽培して、生活の糧にしているようだ。


「なっ。さっきから赤ん坊の泣き声がすんだけど?」
そう言いながら、悟空が泣き声を頼りに探し始めた。


「悟空!あまり歩き回らない方が・・・」
八戒が制止する。
菩薩の仕業である事には間違いないだろうが、何も判らない状況で皆がバラバラになるのまずい。

「だって気になるじゃんよー!黙って立ってたって意味無ぇし!」
そう言いながら小走りに駆けて行く悟空。


「んじゃ、俺らも付き合うか?」
「・・・・しょうがねぇ」
ゆっくり悟空の後を追い掛け始めた三蔵達。

悟空の言う通り、向日葵畑に突っ立っていた所で状況は何も変わらないのだから。


程なく。


「うっわー!八戒、八戒!赤ん坊だ!!すんげぇ小っちぇぇ!!」
驚きの声を上げた悟空。
「・・・確かに小さいですね・・・」
頷きながらも表情(かお)を固くした八戒。







小さな籠に入れられていた赤子は、裸のままで 

あろうことか、へその緒も付いたまま

汗にまみれて汚れ、小さな握り拳は震えていた






「・・・・捨て子じゃねぇか」








唇を噛み締めた悟浄。 





暫し、







向日葵畑は―――――――――――――蝉の煩い音と、赤子の泣き声と、三蔵達の沈黙に包まれた・・・ 










「このままじゃ何ですし・・・」
泣きやまない赤子の声に惹かれるように、八戒が手を伸ばした――――――――が、


「なっ、何だぁ?!」悟浄が声を上げる。

「手が・・・実体がない?!」

八戒が幾ら手を伸ばしても、赤子に触れる事は叶わない。

「マジかよ?!・・うっわ!三蔵!!何でだ?!」
悟空や悟浄が赤子に近づいても、擦り抜けてしまう。

互いの体に触れてみようともするが、それすらも出来ない。


「俺らって・・・さぁ、」一呼吸、悟空がおいて、「・・・・お化け?」






―――――――――スッパアァアアンッ!

容赦なく、打ち下ろされたハリセン。


「アホかっ!」
「だぁって三蔵・・・イテテ」
じんじんする頭を抱え、悟空が視線を逸らした時、

「わあー!見てみて小瑯(シャオロウ)!赤ちゃんが居るっ!」トタトタと駆けてくる少女。

10歳にもならないだろう、小柄な少女。小麦色の肌にピンク色のサンドレス。
長い髪は黄色のリボンでまとめられ、愛くるしい顔立ちが印象的だ。

「ぇえっ?赤ちゃん?待てよ、萄花(ドュホワ)!」
後を追い掛けてくるのは、少女より一つ二つ上かの少年。タンクトップに短パンの身軽な服装に小柄な体型。
濃茶の髪に濃茶の瞳。

少女が恐々と赤子を抱きかかえる。


――――――――――不思議と、今の今まで泣いていた赤子が口を閉ざした。



「・・・可愛い・・・」

誰に言うでもなしに呟いて、少女は踵を返した。

「萄花っ、どうするんだよ。その・・」
「私がお姉ちゃんになるの」

既に決められていた事柄のように、アッサリと少女が、萄花が宣言した。
「お姉ちゃんって・・おじさんやおばさん許可も取らずに、」言いかけた少年、小瑯を見向きもせず、

「許可?そんなの取ってるウチにこの子、死んじゃうわ。それにお母さん達なら大丈夫!私が兄弟欲しいの知ってるもん」
「知ってるもん、って・・・」
タハハ、と首を振って小瑯が背を追い掛けて行く。



「・・・大丈夫よ・・・私が、守ってあげる。お姉ちゃんだもん」

萄花は、腕の中に収まった赤子に優しく囁いた。その顔つきはとても優しい。

「判ったよ。ったく、萄花には敵わないなぁ~・・」

そう言いながらも、小瑯も愛しそうに赤子を覗き込んだ。

「守ってやるよ。俺がお兄ちゃんだ」

フフっと少年と少女が笑みを交わす。






沈む太陽に向かって歩いて行く二人の姿が影絵のようだ。  







「あの、少女は・・・・」八戒の声が途切れた。





――――――――――――萄花と呼ばれていた少女。






「・・・顔立ちとかは、似てねぇケド?」髪を掻き上げる悟浄。





「・・・・・・チッ」嫌そうに眉を顰めた三蔵。





その雰囲気や、態度。 見ず知らずの赤子を救う、その情の深さ。















――――――――――血の繋がらない、姉が居た。





自分の事に関しては、口数の少なかった桃花が






“どんなことでも出来た”






愛してやまなかった“姉の存在”







今の少女が――――――――――――――――桃花の“姉”だとすれば、あの赤子が・・・









「あの女の子、顔は似てないけど・・・・・桃花にそっくりだ」









悟空の一言が、今の“場所”を確定した。









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